関西学院大学 工学部 情報工学課程
大崎 博之 (ohsaki[atmark]lsnl.jp)
100 Tips for Your Successful Undergraduate/Graduate School Life (DRAFT)
Hiroyuki Ohsaki (ohsaki[atmark]lsnl.jp)
Department of Computer Science, School of Engineering, Kwansei Gakuin University
$Id: index.pod,v 1.23 2022/12/20 03:25:35 ohsaki Exp $
"Imagination is more important than knowledge. Knowledge is limited. Imagination encircles the world." -- Albert Einstein
この文書には、 大学生もしくは大学院生のみなさんが、 快適かつ有意義な研究生活を過ごすためのヒントをまとめてあります。
私は、 これまで 20 年以上にわたり学生を指導してきましたが、 多くの学生が同じような問題でつまづいていました。 それらのつまづきの多くは、 ちょっとしたヒントやコツを学べば回避できるものでした。 大学生や大学院生の頃には、 いろいろとつまづいて、 失敗して、 そこから学ぶというのがとても大切です。 ですので、 ちょっとしたつまづきは大いに結構だと思います。 しかし、 同じ問題でいつまでもつまづいていると、 そのうち行き詰まりを感じて、 研究に対する情熱も薄れていってしまうようです。 そこでこの文書に、 そのようなつまづきを回避するためのヒントやコツをまとめました。 学生のみなさんがさらにレベルアップするための一助となることを期待しています。
研究室に配属されるということは、 研究室という「組織」の一員になることを意味します。 研究室は、 小学校から大学の学部までのような、 ひたすら受身の「学校」とはずいぶん様子が違っています。 企業の研究所のような、 いわゆる社会生活の場所に近いといえます。 研究室に配属されたばかりの人は、 そのギャップの大きさにとまどいを感じているかもしれません。
現在、 研究生活を十分に満喫している人は、 この文書を読んでさらなる質の向上を目指してください。 残念ながら、 現在、 研究生活に行き詰まりを感じている人は、 ここに書いたヒントを参考にして、 ぜひその壁を乗り越えてください。
研究生活に行き詰まりを感じると、 ついつい「自分の能力が不十分だから」と考えてしまいがちですが、 それは違います。 以下に紹介するヒントには、 (大学や大学院に入学するだけの能力を有している) みなさんが実行できないような難しいものはありません。 ちょっとしたコツを知っているかどうか、 ちょっとした習慣が身についているかどうか、 それだけなのです。
以下では、 いくつかのカテゴリーごとに、 それらの局面で役に立つヒントを書いてあります。 この文書では、 以下のような 8 個のカテゴリーに分類しています。
コミュニケーション
研究・ミーティング
輪講
調査・資料収集
論文作成 (日本語)
論文作成 (英語)
口頭発表
その他
まず、 もっとも重要なヒントを 3 つ挙げておきます。 これ以降のヒントは、 すべてこれらの 3 つのヒントが背景にあります。
大学・大学院生活を楽しむ
大学生活もしくは大学院生活を、 自分なりの方法で最大限楽しみましょう。 人それぞれ、 何に対して「楽しい」と感じるかは違いますが、 「楽しい」と思っていなければきっと上達しません。 「楽しい」ことならば、 続けても苦になりませんし、 自然にもっともっと上達したいと思います。 「楽しくない」と思っていれば、 どれだけ重要なことでも、 どれだけ今後役に立つことでも、 一生懸命やろうとは思わないものです。
ですので、 まず大学生活もしくは大学院生活を楽しみましょう。 現在、 「楽しい」と思えないなら、 「楽しい」と思えるような工夫や努力をしましょう。 プログラミングが「楽しい」と思えれば、 自然とプログラミングは上達します。 プレゼンテーションが「楽しい」と思えれば、 自然とプレゼンテーションも上達します。 コミュニケーションを、 文章作成を、 プレゼンテーションを、 もっともっと楽しみましょう。
ぜったいに「できる」と信じる
最初にも書きましたが、 この文書で紹介しているヒントのうち、 みなさが実行できないものはほとんどありません。 「できない」と思っていることは、 いつまでたってもできるようになりません。 自分の意見を相手に伝えられるようになる、 論文がスラスラ読めるようになる、 人前で分かりやすいプレゼンテーションができるようになる……どれも簡単ではありませんが、 みなさんの能力でできないことではありません。 きっとできるようになりますし、 ある意味「最終的にはできるようになるのが当然」だとも言えます。
研究生活を続けてゆく上で、 「自分には無理かもしれない……」、 「なんて自分は能力が低いんだ……」そう思う時もあるかもしれません。 しかし、 それは違います。 確かに、 今はうまくできないかもしれませんし、 できるようになるためには努力が必要かもしれません。 しかし、 「もともとうまくできない」から、 それができるようになるために大学や大学院に来ているのです。 「すぐにできるようにならない」から、 チャレンジのしがいがあって楽しいのです。 まず、 自分自信の能力を、 みなさん自信が信じであげましょう。
やる以上はレベルの高いものを目指す
どうせやるなら、 高いレベルを目指しましょう。 どうせ大学や大学院で学ぶなら、 大学生活や大学院生活を最大限有意義なものにしましょう。
どうせ研究をするのなら、 少しでもレベルの高い研究を目指しましょう。 どうせプログラムを書くのなら、 少しでも美しいコードを書きましょう。 どうせ論文を書くのなら、 少しでも美しい文章を書きましょう。 単に「大学卒業」や「大学院修了」という資格をもらうために、 数年間を無駄に過ごすというのは非常にもったいないことだと思います。
個人的には、 大学や大学院では学問の面白さを実感し、 何か自分の興味の持てることをとことん極めて欲しいと思います (大学や大学院は、 それを実現できる環境だからです)。
以下、 それぞれのカテゴリーごとにヒントを紹介してゆきます。 ここで紹介するのは、 あくまで私からのヒントですので、 そのままではみなさんに当てはまらないものがあるかもしれません。 また、 実行するのは簡単ではないヒントも含まれています。 これらのヒントをすべて実行できなくても、 がっかりする必要はありません。 10 年、 20 年かけてできるようになればいいや……くらいの気持で気軽に考えてみてください。
"At age 20, we worry about what others think of us. At 40, we don't care what they think of us. At 60, we discover they haven't been thinking of us at all." -- Ann Landers
このセクションに登場する発言例では、 尊敬語や謙譲語ではなく丁寧語を用いています。 相手に応じて、 尊敬語や謙譲語を適切に用いてください。
話を聞く時、自分が話す時、ともに顔を上げて相手の目を見る
日本人は、 欧米人に比べて、 アイコンタクトが苦手と言われます。 しかし、 確実なコミュニケーションのためには、 アイコンタクトが非常に有効です。 相手の目をじっと見ると緊張してしまい、 萎縮してしまう……という人は、 相手の鼻や顎などを見るようにするといいでしょう。
主観的な意見ではなく、客観的な意見を述べるようにする
自分とまったく同じ考えの人はいません。 そのため、 自分の直観、 感情、 フィーリングなどをもとに話をしてもなかなか相手に伝わりません。 以下のような話し方は避けたほうがいいでしょう: 「なんとなく……のような気がします」、 「理由は説明できませんが……と思います」、 「まだきちんと考えていませんが……と思います」など。
定性的な意見ではなく、定量的な意見を述べる
上記にも関連しますが、 可能な限り、 定性的な意見ではなく、 定量的な意見を述べるようにしましょう。 例えば、 以下のような定性的な説明は良くありません: 「距離が大きくなると、 スループットがより大きくなります」。 これでは、 何の距離がどのくらいの値からどの程度大きくなると、 何のスループットがどの程度大きくなるのか分かりません。
そうではなく、以下のような定量的な説明をしましょう : 「……の距離が XX msec から XX % 大きくなると、 ……のスループットが XX % 大きくなります」。
後向きの意見ではなく、前向きの意見を述べる
常に、 後向き (破壊的・ネガティブ・マイナス思考) ではなく、 前向き (建設的・ポジティヴ・プラス思考) に考えましょう。 またそのように発言しましょう。 大学というクリエイティブな場所に、 後向きの考え方はうまくなじみません。 同じ内容を伝えるにしても、 「……はまず無理と思います。 ……も……もきっとできないと思います。」 というネガティブな意見は、 創造的なアイディアの発展を阻害してしまいます。
そうではなく、 「……は困難ですが、 チャレンジのしがいがあり、 非常に面白いと思います。 ……と……は無理かもしれませんが、 ……という方法や……という方法が考えられると思います」のような意見を述べましょう。 マイナス思考というのは単純には治らないかもしれません。 しかし、 常に前向きの意見を述べる、 というトレーニングによって改善できると思います。
自信を持って、大きな声で話す
一般的に、 声が小さいと、 話している内容に自信がなく聞こえ、 説得力に欠けてしまいます。 声が小さい人は、 普段から大きな声を出すトレーニングをしましょう。 声が小さいという欠点は、 比較的簡単に治すことができると思います。 腹式呼吸の練習をし、 喉から声を出すのではなく、 体全体を共鳴させて、 お腹から声を出すと良いでしょう。
質問に対しては、まず回答を述べ、その後に理由を補足する
相手の質問を正しく理解し、 その質問に対する回答を最初に述べましょう。 その後、 必要であれば理由を説明しましょう。 「なぜ……なのか?」 という質問に対しては、 「……だからです」と答えます。 理由を質問されているなら、 まず「……だからです」と理由を述べます。 比率を質問されているなら、 「XX % 程度です」と最初に答えます。 たったこれだけのことで、 驚くほどコミュニケーションがスムーズになります。 ぜひ試してみてください。
Yes / No で答えられる質問には、まず Yes / No で答える
上記にも関連しますが、 質問に対しては、 まず結論を述べましょう。 Yes もしくは No で答えられる質問なら、 「はい。 というのも……だからです」、 もしくは「いいえ。 というのも……だからです。」 のように答えましょう。
正しく理解できない時、意図が良くわからない時は、相手の意図を確認する
「はい」という返答は、 相手の話した内容をほぼ理解し、 その内容に合意したことを意味します。 相手の発言を理解しないまま、 もしくは合意しないまま、 「はい」と言うのは避けるようにしましょう。 「一部、 理解できない点があるので、 確認させてください。 さきほどおっしゃった……ですが……」のように答えるか、 「……という点では、 私もそう思います。 しかし、 ……という点では、 私の考えは違っています。 というのも……」のように答えるといいでしょう。
質問されたら、沈黙せずに 5 秒以内に何らかの返答をする
コミュニケーションの場で、 沈黙するということは、 相手の時間を浪費することになります。 また、 コミュニケーションを拒否していることになり、 相手に対しても失礼な印象を与えかねません。 ほとんどの場合、 コミュニケーションの場で、 相手を待たせてじっくり考えても、 有意義な考えや返答は出てきません。 もし相手の意図が理解できないなら、 まずその旨を伝えるといいでしょう。 もし自分の考えが混乱しているなら、 「質問の意図は理解できるのですが、 少し考えが混乱しています。 というもの……」のように話を続けるとよいでしょう。
「いえ、ですから……」や「………けど」といった表現を避ける
「いえ、 ですから……」には、 「違います。 さきほど説明したように……」という意味が含まれています。 すでに説明が済んでいなければ使わないようにしましょう。 もし説明が済んでいたとしても、 相手が理解していないのは、 自分の説明がうまくないからかもしれません。
また、 「……けど」には、 「……です (けれども……に関しては違う考えです (私は同意していません)」という意味があります。 代わりに、 以下のような表現を使うとよいでしょう: 「いいえ。 説明が不足していましたが……と思います」、 「……と思います」。
正しい敬語を使う。尊敬語/謙譲語/丁寧語を区別して使い分ける
残念ながら、 大学院生の段階で、 正しい敬語を使える人はほとんどいません。 まず、 自分の敬語は正しいはず……という先入観を疑ってみましょう。 敬語に関する本を何冊か読んで、 敬語の基本を再度確認するとよいでしょう。 私は、 敬語は日本の文化だと思います。 「敬語の誤用例」等の本を読めば、 自分の敬語の間違いが理解しやすいと思います。 特に、 丁寧語は敬意が低いという点に注意しましょう。 また、 丁寧語と尊敬語を明確に区別して使い分けましょう。
例えば、 目上の人に何かを依頼する場合に、 「……してください」という表現は使わないようにしましょう。 「……しなさい」という命令文を、 単に丁寧語にしているだけですので、 かなり強い表現です (依頼ではなく、 命令の意味です)。 代わりに、 以下のような表現を用いるとよいでしょう: 「大変恐縮ですが、 ……して頂くことは可能でしょうか」、 「お手数をおかけして申し訳ありませんが、 ……して頂けませんでしょうか」など。
「国際化時代のコミュニケーション手法」、 「相手に自分の考えを伝える方法」、 「人を動かす方法」、 「相手に NO と言わせない交渉術」といった雰囲気のタイトルが付いた本を参考にするとよいでしょう。 こういうタイプの本を何冊も読みましたが、 どの本でも、 書いてある内容は大体同じなので、 どれを選んでも良いと思います。 敬語に関しては、 社会人向けに敬語を解説した本が多数出版されています。 特に、 金田一春彦の本は、 内容が濃く、 おすすめします。
金田一 春彦, "日本語を反省してみませんか," 角川書店, 2002.
藤沢 晃治, "「分かりやすい説明」の技術," 講談社, 2002.
"Fall seven times, stand up eight." -- Japanese Proverb
常に、作業のコストパフォーマンスが向上するように心掛ける
常に、 作業の効率を高めることを意識し、 問題があればそれを改善する努力しましょう。 1 日 24 時間というのは、 誰にとっても平等です。 現在よりもアウトプットを増やすためには、 (1) 睡眠時間や余暇を削るなど、 作業時間を増やす、 (2) 作業時間はそのままで、 効率を高める、 のどちらかになるでしょう。 ある程度まで (1) は有効ですが、 限界があります。
30 分考えても前進しなければ、作業方法を再考する
研究は、 ジグソーパズルを完成させるように、 毎日コツコツ作業を行っていればいつかは完成する、 というものではありません。 例えば、 一つの問題に対して 30 分以上作業を続けても、 作業が進んでいないと感じたら、 その時は要注意です。
ほとんどの場合、 以下のどちらかに原因があります。 (1) 取り組んでいる問題が、 そもそも自分では解決できない、 (2) 問題への取り組み方が間違っている。 (1) の場合は、 指導教員や先輩などと相談して、 問題設定を見直す必要があります。 (2) の場合は、 問題への取り組み方を変えるか、 他の良い方法が思いつかなければ、 すぐに指導教員や先輩などに相談しましょう。
ほうれんそう (報告/連絡/相談) を定期的に行う
一般に、 共同作業を行う場合には、 ほうれんそう (報告 / 連絡 / 相談) が非常に重要です。 研究を進める場合にも、 これがそのまま当てはまります。 指導教員に何らかの問題や課題を与えられると、 それを終えるまではとにかく一人で頑張ろう……という人が多いように思えます。 特に、 問題や課題が、 あらかじめ決められた予定通りに進んでいない場合は、 とにかく一人で頑張って終わらそう……という人が多いようです。
でも、 これはまったく逆です。 作業が順調に進んでいない時こそ、 ほうれんそう (報告 / 連絡 / 相談) が重要です。 上の項目とも関連しますが、 作業が予定通りに進んでいない時には、 できるだけ早い段階で報告や相談をするようにしましょう。
普段のメールやミーティング資料から、正しい日本語/英語を書く
普段のメールやミーティング資料で、 間違った日本語を書いている人が、 論文や発表資料を作成する時になると、 人が変わったように正しい文章 (日本語もしくは英語) を書く、 ということはありません (これは断言してもいいです)。 普段、 正しい日本語を書くことのできる人だけが、 論文や発表資料でも正しい文章を書くことができるようです。
日頃から、 どんなちょっとした文章であっても、 意識して正しい日本語を書くように心掛けましょう。 メールやミーティング資料を作成する時には、 内容が正しいかどうかはもちろん、 日本語として正しいかどうかについても、 常に時間をかけてチェックするようにしましょう。 こういう小さな心掛けが、 後になって大きな差となって表れてきます。
与えられた仕事/作業ができなければ「できない」と言う
学生のみなさんは、 ほとんどの人が強い責任感を持っています。 このため、 指導者から仕事や作業が与えられたにもかかわらず、 それがうまくこなせない時に、 「作業が進まないのは、 僕の能力が不足しているから」とか、 「作業が進まないのは、 僕の努力が不足しているから」などと考えがちです。 しかしそうではなく、 与えられた仕事や作業に無理があることも多くあります。
研究では、 今までに解かれたことのない問題に挑戦するのですから、 指導者の人であっても、 問題の難易度をいつも正確に把握できるわけではありません。 与えられた仕事や作業が難しすぎると感じたら、 遠慮なく「できない」ということを表明しましょう。
指導者との「共同研究」なので遠慮なく助けてもらう
大学での研究は、 (例外もありますが) たいてい教員の方が提案書を書き、 それによって獲得した研究費によって実施されています。 学生のみなさんが取り組んでいる研究は、 そのような教員の方が提案した研究の一部であることが多いと思います。 そのような場合、 研究は自分一人だけの研究ではなく、 指導者の方との「共同研究」となります。 研究成果を発表する時に、 指導者との共著になるものはすべて共同研究と考えてもいいでしょう。
研究成果を出すということは、 みなさんだけでなく、 指導者にとってもメリットがあります。 良い研究成果が出れば、 高い評価を得ることができ、 今後の予算獲得も容易になります。 指導者の方には遠慮なく助けてもらいましょう。 特に、 上記のように与えられた仕事が難しい時には指導者の力を借りましょう。 それが、 みなさんにとっても指導者の方にとっても、 結果的にプラスになります。
ある程度待っても指導者から返事がなければ催促する
学生のみなさんが、 指導者の人に何か作業を依頼するのは気が引けるという気持は良く理解できます。 「あれをしてください」、 「これをしてください」と (特に目上の人に) 依頼するのは、 たしかに日本人の美徳に反しています。 このため、 指導者の方に何か作業を依頼したにもかかわらず、 なかなか返事が帰ってこない時に、 催促をするのがなかなか難しいようです。
しかし、 指導者の人は、 同時に何人もの学生を指導していますので、 作業を依頼されたことを忘れていることがあるかもしれません (私はよくあります……)。 ですので、 ある程度待っても指導者から返事がなければ催促しましょう。 その時に、 「今後の作業計画を立てておきたいので、 いつ頃お返事を頂けそうか教えて頂けませんでしょうか?」 のようにやんわり催促するのが良いかと思います。
研究室という「社会」の一員であるという視点を持つ
研究室は、 最先端の研究を実施し、 成果を挙げるための場所です。 数十年前に解かれているような初歩的な問題を、 学生に解かせるための場所ではないのです。 いわゆる、 企業の研究所と同じだと考えましょう。 主に、 実施する研究によって獲得した研究費によって運営されています。
ミーティング資料は前日までに作成し、指導者にチェックしてもらう
教員や先輩との研究ミーティングを有意義なのもにするため、 作成したミーティング資料は、 前日までに指導者にチェックしてもらいましょう。 研究では、 一人でコツコツ作業するというのも重要ですが、 それと同じくらい他の人に意見を求めるというのも重要です。 ミーティング前までに、 指導者に事前にチェックしてもらうことにより、 初歩的な誤りや、 誤解を招きそうな表現を減らすことができると思います。 また、 指導者からのフィードバックをもらうことによって、 研究自体が進むだけでなく、 資料の作成技術も向上できるでしょう。
ミーティング資料のマージン (余白) は小さくする
ミーティング資料で、 マージン (周囲の余白) が非常に大きいものがときどき見受けられます。 単に紙の無駄使いなので、 ミーティング資料のマージンは小さくしましょう。 どのようなソフトウェアを用いてミーティング資料を作成しているかにもよりますが、 LaTeX のスタイルファイルや、 PowerPoint のテンプレートなどは、 初期設定では非常に大きなマージンを取っています。 LaTeX を使っている場合は、 以下のように vmargin パッケージを使うのが簡単です。
\usepackage{vmargin}
\setpapersize{A4}
\setmargrb{2cm}{1cm}{2cm}{1cm}
PowerPoint の場合はスライドマスターを修正し、 テキストボックスを大きくすればマージンを小さくすることができます。
毎回一からミーティング資料を作るのではなく、前回のものに追加する
研究は日々の積み重ねなので、 同じテーマに取り組んでいる限りは、 ミーティング資料は前回のものに追加する形で作成すると良いでしょう。 ページ数が多くなりすぎれば、 ある程度古いものはカットするなど、 ミーティングで説明したい内容に応じて臨機応変に対応してください。 ミーティング資料の分量として、 A4 で 3〜4 枚程度を目安にするといいと思います。
ミーティングで何を説明したいかを事前に考えておく
学生のみなさんは一生懸命なので、 「とにかく何か新しい結果をミーティングで報告したい」とか、 「とにかく収集できたばかりのデータを見てもらいたい」という意識が強いように思えます。 そのため、 ミーティングの場で、 「じゃあこの結果から何が言えるのですか?」 などと質問されると、 とたんに困ってしまうことが多いようです。 そのため、 ミーティングが始まるまでに、 15 分程度でもいいので時間を取って、 ミーティングで何を説明したいのが考えるようにするといいでしょう。
ミーティングで予想される質問を事前に考えておく
これはミーティングに限りませんが、 誰かに何かを説明する時には、 「その説明を聞いた人がどう思うか」を事前に考えるといいでしょう。 学生のみなさんの場合は、 ミーティングで緊張するということもあって、 説明を受けた人がどう思うかなど、 その場ではなかなか考える余裕がないことも多いと思います。 そこで、 ミーティングが始まる前に、 どういう質問が予想されるか事前にシミュレーションしてみるといいでしょう。
分かったことだけでなく、分からないことも書く
ミーティングの場では、 「とにかくこれまでの成果を発表したい」と考える人が多いようです。 そのため、 これまでの研究で分かったこと、 明らかになったこと「だけ」をミーティング資料に書く人が多いように思えます。 しかし、 ミーティングでは、 これまでの研究状況や成果をふまえて、 今後どのような方向に進めてゆくかを議論することも大切です。 そのためにも、 ミーティング資料には、 これまでに分かったことだけでなく、 これまでの研究で分からなかったことや、 現時点で分からないこと・疑問に思うことも積極的に書くようにしましょう。
ミーティングの結論や、ミーティング中に思いついたことはメモを取る
ミーティングを有意義なものにするために、 ミーティング中の議論の要点や、 ミーティング中に思いついたことは、 すぐにメモを取るようにしましょう。 そこから、 今の研究をより良くするヒントや、 次の研究テーマのアイディアが生まれるかもしれません。 このためにも、 ミーティングにはノートやペンを持参することを忘れないようにしましょう。
指導者が言っていることは間違っているかも……という意識を持つ
さすがに何年も研究をしているだけあって、 教員や先輩はいろんなことを知っています。 そのため、 「ついつい教員や先輩の言っていることは正しい」と思い込みがちです。 ほとんどの場合はこれでもうまく行くのですが、 指導者もやはり人間ですので、 間違うことも、 勘違いすることもあります。 そのため、 「指導者の言っていることは正しいに違いない」と考えるのではなく、 指導者の言っていることが間違っている可能性も常にあるということを忘れないようにしましょう。
自分の考え方は間違っているかも……という意識を持つ
上と矛盾しているようにも聞こえますが、 常に「自分の考え方が間違っているかもしれない……」という意識を持つようにしましょう。 ソフトウェア開発におけるデバッグと同様に、 「どのように正しいか?」 という視点ではなく、 「どこか間違っていないか?」 という視点で考えるようにしましょう。
「この論文の……がおかしいと思います」とか「この論文の著者は……を考えていないのだと思います」のような考え方を気軽にする学生が多いようです。 しかし実際には、 ほとんどの場合、 学生の考え方のほうが間違っています。 もちろん例外もありますが、 一般に、 論文として発表されているものは、 みなさんよりも経験を積んだ研究者の人が、 かなりの時間を費やして作成したものです。 私の経験では、 そのような場合、 90 % 以上の割合で、 学生の考え方のほうが間違っているようです。
ミーティングの要点や今後の作業内容の一覧を作成する
ミーティング終了後に、 今回のミーティングの要点や今後の作業内容の一覧を作成するようにしましょう。 そして、 これを指導者にチェックしてもらい、 研究を進める方向が間違ってないかを確認してもらうと良いと思います。
また、 今回のミーティングから、 次回のミーティングまで、 一週間〜数週間程度の時間が空くのが普通だと思います。 このため、 次回のミーティング資料に、 ここで作成したミーティングの要点や今後の作業内容の一覧を含めると良いでしょう。 これにより、 ミーティングの他の参加者に、 前回のミーティングの要点をすぐに思い出してもらうことができ、 限られたミーティングの時間をより効率的に使うことができると思います。
研究ミーティングは、 (異なっている点も多いですが) いわゆる会議と性質が似ています。 「効率的な会議の方法」、 「国際化時代の会議」、 「欧米ビジネスマナー (会議編)」といった雰囲気のタイトルが付いた本が参考になるでしょう。 日本の伝統的な会議は和を重んじるため、 それほど効率を重視しないこともあります。 研究ミーティングとしては、 欧米式の、 完全に効率を重視した会議の方法が参考になるでしょう。
"Don't judge each day by the harvest you reap but by the seeds that you plant." -- Robert Louis Stephenson
輪講の目的を理解し、その目的にあった輪講を行う
輪講の目的は、 (1) 「最新の論文を読んで、 研究に関する最先端の情報や知識を共有すること」、 および (2) 「限られた時間で、 論文の内容を適切に説明して、 聴衆に理解させる力を身につけること」です。 常に、 この目的を考えながら輪講を行いましょう。 例えば、 時代遅れの、 役に立たない論文を読んでも意味がないでしょう。 輪講が終わった時に、 論文の内容を、 全員がある程度のレベルま正しく理解できていなくては意味がないでしょう。
学士や修士を取得するために、 義務として輪講をするというのは時間がもったいないと思います。 輪講の時間を無意味に過ごさないようにしましょう。 全員が共通の時間に揃うという、 貴重な時間であることを忘れないようにしましょう。
説明および質問に使用する時間を設けるなど工夫する
輪講の参加者には、 知識のレベルに幅があります。 発表者は、 全員が理解できるように発表を工夫しましょう。 上級生には、 論文の詳しい内容を理解してもらえるように、 下級生には、 少なくとも、 論文の目的や背景が理解してもらえるようにしましょう。
これまでの経験から、 以下のような方法は効果があると思います。 (1) 論文の概要 (日本語) を配布する、 (2) 他の人が理解できているか、 発表者が参加者に対して頻繁に質問する、 (3) 論文の内容に関して、 議論する時間を十分に取っておく、 (4) ホワイトボードを用いて説明する、 (5) 具体的な例をもとに説明する、 (6) 発表にメリハリを付ける (座るのではなく、 立って発表するなど)、 など。
輪講のスタイルを定期的に見直し、輪講の時間を効率的に活用する
おそらく、 完璧な輪講というのは存在しないでしょう。 輪講にまったく興味を持っていない学生、 輪講中にぐっすり眠る学生、 輪講がとにかく嫌でたまらない学生など、 常に存在するものです。 そういった学生の意識や態度にも問題があるかもしれませんが、 輪講のスタイルに問題があることも多いと思います。
常に、 誤差 (輪講の目的 - 現在の輪講の成果) をフィードバックし、 輪講のスタイルを改善するようにしましょう。 ある先生の言葉を引用しておきます: 「輪講に参加することに、 本当に 90 分の時間を費やす価値があるかどうかを、 常に考えないといけない。 輪講に参加しても、 90 分に見当った知識や情報が得られないのであれば、 輪講をさぼって遊びにでも行ったほうがよっぽどマシだ。」
"The secret of power is the knowledge that others are more cowardly than you are." -- Ludwig Boerne
インターネットの検索エンジンに過度の期待をしない
インターネットを利用すれば、 実に膨大な量の情報を入手することができます。 例えば、 2008 年の時点で、 インターネット上の Web ページは 1 兆ページ以上存在すると言われています。 このような、 インターネット上の情報をいかに効率的に利用するかが、 これからの情報化社会を生きて行く上で求められるのは確かでしょう。
しかし、 「インターネットの検索エンジンを利用すれば、 ありとあらゆる情報が入手できる」という過度の期待は持たないようにしましょう。 著作権で保護された情報の多くは、 インターネットでは簡単に入手することができません。 世の中には、 インターネット以外にも重要な情報がたくさんあることを忘れないようにしましょう。
インターネットの検索エンジンを使いこなす
上で述べたように、 インターネットの検索エンジンへの過度の期待は禁物ですが、 インターネットの検索エンジンを上手に使いこなしましょう。 ひたすら、 キーワードを変えながら何時間もインターネットの検索エンジンにかじりつく……というのは避けましょう。
例えば、 ほとんどの検索エンジンは論理式を記述することによって、 AND/OR 検索が可能です。 代表的なインターネットの検索エンジン DuckDuckGo (http://duckduckgo.com) では、 「site:co.jp」によって検索対象の Web ページを co.jp ドメインに限定したり、 「fileytpe:pdf」によって検索対象のファイルを PDF に限定したりすることができます。
検索エンジンでは英語のページを検索対象にする
みなさんの大半は日本語が母国語なので、 日本語で情報を得たいと思うのは当然のことだと思います。 しかし、 特に研究の分野では、 ほとんどの情報は英語で書かれています。 このため、 いくらインターネットの情報量が膨大といっても、 そのうち日本語で書かれているページは残念ながらそれほど多くありません。
ですので、 インターネットの検索エンジンを使う時には、 日本語のページではなく、 英語のページを検索対象にしましょう。 キーワードを入力する時は、 日本語のキーワードではなく、 英語のキーワードを選びましょう。 例えば、 原稿執筆時点で、 「プロトコル」というキーワードに一致するページは約 60 万件でしたが、 「protocol」というキーワードに一致するページは約 1 億 9 千万件もあります。
科学文献のデジタルライブラリ CiteSeer や Google Scholar を活用する
インターネットの普及により、 情報収集が非常に楽になりました。 昔 (私が大学院生の頃) は、 論文を探すためには、 先生方が講読している論文誌を見せてもらうか、 図書館に行って調べるしかありませんでした。 最近は、 論文のためのデータベースや検索エンジンが登場しているので、 これらを活用しない手はありません。
CiteSeer は NEC が開発した論文データベースで、 誰でも自由に利用することができます。 論文の PostScript ファイルや PDF ファイルから、 参考文献の情報を抽出し、 論文の相互参照関係を自動的に抽出しているというのが特徴です。 CiteSeer のサーバは動作が不安定ですが、 計算機科学分野の論文が数多く収録されています。
CiteSeer
http://citeseer.ist.psu.edu/
Google Scholar は後発ですが、 Google が開発した論文の検索エンジンで、 これも誰でも自由に利用することができます。
Google Scholar
http://scholar.google.com/
商用の論文データベースやデジタルライブラリを活用する
大学によって事情は異なると思いますが、 多くの大学では、 商用の論文データベースやデジタルライブラリを契約しています。 商用の論文データベースやデジタルライブラリの種類にもよりますが、 ライセンス料が非常に高額なもの (年間数千万〜数億円) もあります。 大学がその費用を負担してくれているのですから、 これを活用しない手はありません。
大学と出版社間のライセンス形態によって、 商用の論文データベースやデジタルライブラリにアクセスできる利用者が限定されていることもあります。 例えば、 教員は可能だが学生は不可であったり、 教員・大学院生は可能だが学部生は不可であったり。 大学によって、 もしくは商用の論文データベースやデジタルライブラリによって異なります。 各大学の利用規定を確認して、 利用できるものは最大限利用しましょう。
辞書・辞典・雑誌・書籍 (入門書や専門書) を最大限活用する
技術用語の意味や最新の技術動向のように、 一般的な情報や新しい情報を浅く広く得たい時には、 インターネットの検索エンジンを使うと良いでしょう。 しかし、 過去の研究成果や技術解説などを詳しく知りたい時には、 書籍などの印刷物を最大限活用しましょう。
例えば、 指数分布の定義を正確に知りたければ、 数学辞典を参照するのが一番です。 パケット交換技術について学びたければ、 入門書や専門書を読むのが一番です。 比較的新しい通信プロトコルの詳細を知りたければ、 雑誌の解説記事を読むといいでしょう。
図書館を日常的に活用する
「書籍を買えばいいのは分かるけど、 専門書はたいてい高価だから……」という思いを持つ人は多いと思います。 たしかに、 大学院生の時に、 数千円から 1 万円以上もする専門書をそうそう気軽には買えないのは事実だと思います。
そういう人のために、 大学や地方自治体の図書館があります。 これらを最大限利用することをお勧めします。 例えば、 関西学院大学附属図書館は非常に幅広い蔵書を持っています。 これを利用しない手はありません。 本学の図書館の場合、 キャンパス内の他の図書館や研究室に置かれている蔵書を取り寄せてもらうことも可能です。 また、 研究目的であれば、 他の大学の図書館の写しを取り寄せたり、 他の大学の図書館利用できる制度もあります。 また、 閲覧だけであれば、 研究目的に限らず利用できます。
他にも、 専門書はほとんどありませんが、 地方自治体の図書館もぜひ利用するといいでしょう。 英語・数学・論文の書き方など、 一般的な本はたくさん揃っています。 また最近では、 インターネットから蔵書を検索したり、 予約できる図書館も増えています。
例えば、 私が普段利用している市立図書館では、 インターネットから蔵書を検索し、 予約することができます。 最寄りの図書館になければ、 市内の他の図書館から取り寄せてもらえます。 また、 現在貸し出し中であっても予約することが可能です (予約のキューに入って、 順番に処理されます)。 予約した本が届けば、 メールもしくは電話で連絡がもらえます。 非常に便利なサービスなので、 ぜひ有効に活用してください。
研究の背景や目的を理解し、他の人に説明できるようにしておく
実際に論文を書き始める前に、 研究の背景や目的を整理しましょう。 「何を」・「どのように」研究したのかについては十分に理解しているのですが、 「何のために」研究したのかについての理解が不足している人が多いようです。 背景や目的をぼんやりと理解しているだけでは、 一本筋の通った論文を書くことはできません。 指導教員や他の人ともよく議論し、 研究の背景や目的を他の人に説明できるようにしておきましょう。
研究のコントリビューションを明確にしておく
実際に論文を書き始める前に、 研究のどの部分に新規性や独創性があるのかを明確にしておきましょう。 論文では、 新規性や独創性をアピールすることが非常に重要です。 上の項目でも説明しましたが、 「何を」・「どのように」研究したのかを説明するだけでは不十分です。 ただし、 「今までに研究されていないから」というのは、 新規性や独創性にはなりませんので注意しましょう。 論文で、 今までに研究されていないことを発表するのは当たり前だからです。
文章を書き始める前に、時間をかけて論文の構成を考える
「どうもうまく書きたいことが書けません……」という悩みをよく聞きます。 正しく、 美しい日本語を書くというのは確かに簡単なことではありません。 しかし、 どういう部分で行き詰まっているのかをよくよく聞いてみると、 実は「何を書きたいかが決まっていない」ことが多いようです。 実際に文章を書きながら、 何を書こうか考えて作業している人が非常に多いようです。 しかし、 残念ながらそういう方法ではうまく行きません。 建物には設計図が、 電子回路には回路図が、 絵にはデッサンが必要です。 まず、 文章を書き始める前に、 時間をかけて論文の構成を考えましょう。
目次だけで論文の構成が分かるように工夫する
上の項目とも関連しますが、 文章の構成は非常に重要です。 しっかりした構成があって始めて、 正しく分かりやすい文章を書くことができます。 しっかりした構成になっているかのチェック方法の一つとして、 章タイトルだけを見て、 論文の構成がおおよそ分かるようになっているかどうかを確認するという方法があります。 よく書けている論文は、 章タイトルも論理的に正しく、 簡潔な言葉で書かれています。
数値例/シミュレーションで使用したパラメータを選んだ理由を説明できるようにしておく
通信分野の論文には、 多くの場合、 性能評価 (解析、 シミュレーション、 実験など) の結果が含まれています。 性能評価では、 通常、 システムの性能に影響を与えるパラメータを変化させて実験を行い、 性能指標 (メトリクス) を計測します。 パラメータの選択を正しく行わなければ、 性能評価の結果も意味のないものになってしまいます。 論文にこのような性能評価の結果を含める場合には、 「なぜ (多数のパラメータの中から) それらのパラメータを選んだのか?」、 「なぜそのようなパラメータ範囲で評価を行ったのか?」 を説明できるようにしておきましょう。
日本語の論文作成に関する本を、3 冊以上読んで身につけておく
技術者の間でよく使われる表現として、 「車輪の再発明 (Reinventing the wheel)」という言葉があります。 すでに発明されている技術 (この例では「車輪」) を、 ゼロから頑張って再発明するという無駄な行為を皮肉った表現です。 日本語作成に限りませんが、 常に先人の知恵を活かすことを考えましょう。 日本語の書き方や、 論文の作成方法を、 みなさんが「発明」する必要はありません。 すでにたくさんの先人が情報を本に書き残してくれています。 まず、 これらの本を読んで、 基礎的な事柄を身につけるところから始めましょう。
指導者との共同作業であることを考え、余裕のあるスケジュールを立てる
普通に高校〜大学〜大学院と進学してきた人にとっては、 自分以外の人と共著で文章を書くというのは、 あまり経験したことがないと思います。 通常、 大学の授業で課されるレポートは一人で書きます。 一人でプログラムを作成して、 一人で文章を書く、 という作業に慣れてしまっているので、 指導者と共同で作業するということに、 いろいろととまどってしまうかもしれません。 一人より二人、 二人より三人で作業するほうが、 作業の切り替えに必要なオーバヘッドが大きくなります (オペレーティングシステムで、 プロセス数が増えるにつれコンテキスト・スイッチのオーバヘッドが増えるのと同じです)。 ですので、 指導者との共同作業では、 自分一人で作業するよりも余裕のあるスケジュールを立てましょう。
できるだけ詳細なスケジュールを立てて、自分でスケジュール管理する
スケジュールを立てるのは難しいことです。 特に、 これまでにあまり経験したことのない作業に取り組む時は、 作業時間の見積がうまくできず、 なかなかスケジュールを立てることができません。 しかし、 「スケジュールを管理する」という意識を持つことが重要です。 スケジュール作成時の時間の見積は間違っているかもしれませんし、 時間の見積が正しくても、 予期せぬ事態によってスケジュール通り進まないかもしれません。 それでも、 できるだけ詳細なスケジュールを自分で立てて、 自分でスケジュール管理をするように工夫しましょう。
アブストラクトには、研究の結果何が明らかになったのかも書く
ほぼすべての書き物に共通する原則は、 「『著者が書きたいこと』ではなく、 『読者が読みたいこと』を書く」です。 無意識に、 本能的に文章を書くと、 どうしても自分が書きたいことを書いてしまい、 読者が何を期待しているかというのは二の次になってしまいがちです。
英語の abstract は、 「a short piece of writing containing the main ideas in adocument (OALD より)」という意味です。 中心となる「考え」を含むもの、 なのです (ここでの ideas は「発想」ではなく「考え」を意味します)。 ですから、 アブストラクトには、 論文の中心となる「考え」を含めましょう。 逆に言えば、 論文の中心となる「考え」が書かれていないなら、 それはアブストラクトとは呼べません。
従って、 アブストラクトには、 「何をやったのか」、 「何のためにやったのか」、 「どのようにやったのか」だけでなく、 「やった結果何がわかったのか」も書きましょう。 研究の結果、 何がわかったのかが最も重要な「考え」の一つであるはずです。
各パラグラフの 1 行目で、そのパラグラフ全体をうまく要約する
日本の初等〜中等教育 (小学校・中学校・高校) では、 「テクニカルライティング」を教えません。 高等教育 (大学・大学院) では教えているところもあるかもしれませんが、 私が学んだ大学・大学院では教えていませんでした。 おそらく、 今での多くの大学・大学院ではテクニカルライティングを教えていないと思います。
小学校や中学校で、 ひたすら日記や感想文を書くトレーニングをします。 大学でたくさんのレポートを提出するでしょうが、 その書き方の指導を受けることもないため、 その大半が日記や感想文のようなレポートになっています。
まず、 「自分は日本語の文章が書ける」という自信 (過信) を捨てましょう。 テクニカルライティングの教育は受けていないし、 当然、 テクニカルライティングの練習もしていないので、 技術的な文章が書けないのです。 「自分は日記や感想文は書けるけど、 技術文章はやったことないのでできません」と認識することから始めましょう。
すべての文章に対して、主語、述語、目的語が何なのかを明確にする
普段、 日本語で誰かと会話している時には、 日本語の文法をいちいち考えていないでしょう。 文法構造や係受けの正しさなどを意識せずに、 頭の中に思いついた単語や表現を口にしているでしょう。 そういった方法でも、 家族や友人との会話で特に困っていないと思います。 しかし、 そのような「思いついたことを口にする」方法で困っていないのは、 家族や友人とそれほど複雑な話をする必要はないからです。
指示代名詞を用いる場合は、対応する語が一意に定まるか確認する
不必要に漢字を多く使わない。漢字とひらがなのバランスを考える
論文として適切な表現を使う。口語的な表現は使わない
日本語の論文に、むやみに英語を混在させない
句読点を「、。」もしくは「,.」のどちらかに揃える
助詞の連続は避ける (……の……の……の、など)
空白の使い方 (余分な空白や、逆に足りない空白) に注意する
グラフの XY 軸には、すべて適切なラベルをつけて、単位も書く
単位はすべて SI 単位系に統一する
全角の英数字や空白は使用しない。機種依存文字は使用しない
すべてのファイルの漢字コード、改行コードを統一する
参考文献を正しく書く。BibTeX を正しく使う
\epsfig ではなく \includegraphics を使う
日本語では ~\cite や ~\ref ではなく \cite や \ref とする (~ は不要)
読みやすくなるようにインデントを工夫する
文中の数式は $N$ や $p$ などのようにする
引用符を正しく使い分ける
例: `lost packets' や ``lost packets'' が正しい。
- (ハイフネーション) と -- (範囲) と --- (挿入) を正しく使い分ける
例: router-based、pp. 23--28、IP routers --- Cisco XXX and Intel XXXX --- have...
Acrobat Distiller のページサイズは A4 (297mm x 210mm) に設定する
参考文献を 2 つ以上参照する時は、\cite{A} \cite{B} ではなく、\cite{A,B} とする
文中の分数は $x / y$ のように書く。数式モード中の分数は \frac{x}{y} のように書く
できるだけ簡潔な表現を使う (「……について議論する」→……「を議論する」など)
文節の長さを 30 〜 40 文字以下に抑える
接続詞が不足していないか、文章と文章のつながりが自然か考える
「日本語の作文技術」のルールに従って句点をつける
タイトルが複数行にわたる場合、バランスを考えて適切な位置で改行する
データ転送プロトコル GridFTP のための
並列 TCP コネクション数調整機構の
性能評価
↓
データ転送プロトコル GridFTP のための
並列 TCP コネクション数調整機構の性能評価
Microsoft Word の校正ツールを活用する
図のフォントの大きさが本文と同じ程度になるよう調整する
BibTeX の正しい使い方を理解する
LaTeX で文章を書く場合、 2〜3 個の参考文献を含めるだけならば、 thebibliography 環境を使って手動で書くこともできます。 しかし、 通常、 論文には 10〜20 程度の参考文献を含めるため、 BibTeX を使うと作業がずっと楽になります。
BibTeX は、 日本語の書籍等ではあまり詳しく取り上げられていないためか、 学生のみなさんは BibTeX の機能をよく理解せず、 見よう見まねで使っていることが多いようです。 それほど分量の多いドキュメントではないので、 一度、 BibTeX の使い方をちゃんと学んでおきましょう。
BibTeXing
http://bibtexml.sourceforge.net/btxdoc.pdf
BibTeX を正しく使うのは難しいようです。 BibTeX のソフトウェアの利用法は簡単ですし、 bib ファイルの書き方 (例えば文法) もそれほど難しいものではありません。 しかし、 BibTeX を正しく使うのは難しいのです。 bib ファイルを書く際には、 いくつかのルールがあるのですが、 bibtex コマンド自体がこれらのルールをチェックしてくれないため、 基本的に人間が目でチェックする必要があるからです。
以下に、 私がこれまで指導してきた学生が、 よく犯していた間違いをもとに、 bib ファイルのチェックリストを紹介しておきます。 特に、 これらの点に注意すれば、 おそらく 90% くらいの間違いは防ぐことができると思います。
雑誌に掲載されている論文は @Article を使う
国際会議の予稿集は @InProceedings を使う
テクニカルレポートは @TechReport を使う
インターネット上で「のみ」入手可能なものは @Misc を使う
例:
@Misc{Foster02:OGSA,
author = {I. Foster and C. Kesselman and J. Nick and S. Tuecke},
title = {The Physiology of the {Grid}: An Open Grid Services
Architecture for Distributed Systems Integration},
year = 2002,
month = jan,
howpublished = {\url{http://www.globus.org/research/papers/ogsa.pdf}}
}
インターネット上「でも」入手可能なものは note フィールドに書く
例:
@InProceedings{Kelly99:Mathematical,
author = {Frank Kelly},
title = {Mathematical modeling of the {Internet}},
booktitle = {Proceedings of Fourth International Congress on
Industrial and Applied Mathematics},
year = 1999,
month = jul,
note = {Also available as
\url{http://www.statslab.cam.ac.uk/~frank/mmi.html}}
}
title で、大文字にしたい箇所は {} で囲む
例: title = {{RED} ゲートウェイの定常状態解析}
(英語のみ) author はカンマではなく、and で区切る
例: author = {Hiroyuki Ohsaki and Masayuki Murata and Hideo Miyahara}
(英語のみ) author の数が多い時 (目安として 6 人以上) は others を使う
例: author = {C. Jin and others},
(日本語のみ) author はカンマで区切り、全体を {} で囲む
例: author = {{大崎 博之, 米良 祐一郎, 村田 正幸, 宮原 秀夫}},
@Article では、author、title、journal、year は必須
volume、number、pages、month なども省略せず全て記入する
雑誌名は省略してもいいが、スタイルをすべて統一する (省略せずに書くのが無難)
ページ数の区切は - ではなく -- を使う
例: pages = {131--136}
月はマクロを使って書く
例: month = oct
URL を書く時は url.sty を使う
例: note = {Also available as \url{http://www.isi.edu/nsnam/ns/}}
Emacs の BibTeX モードで、C-c C-c (bibtex-clean-entry) を実行して、書き方が正しいか (最低限の) チェックをする
Emacs の BibTeX モードで、C-c C-q (bibtex-fill-entry) を実行しておく
bib ファイルに対して BibTeX を実行し、エラーや警告が出ないか確認する
CiteSeer の bib ファイルは間違いだらけ。そのまま使わない
bibcheck を活用する
あまりにチェックリストが多いため、 うんざりしてしまったかもしれません。 ある程度慣れてくると、 bib ファイルのチェックは、 間違い探しをしているようなもので楽しいのですが、 なかなかその域にまでは到達できないかもしれません。
そこで、 上記のチェックリスト (の一部) を自動的にチェックする Perl のスクリプト bibcheck を作成しましたので、 ぜひこれを活用してください。 まずは、 bibcheck で警告が出なくなることを目指しましょう (現在の bibcheck は警告を多目に出すようにしているので、 正しくても警告が出ることがあります)。 もちろん、 bibcheck だけに頼るのではなく、 bib ファイルを自分の目でも見てチェックすることを忘れないようにしましょう。
A consistency checker for BibTeX files
http://www.lsnl.jp/cgi-bin/bibcheck
* "学術論文の書き方・発表の仕方," 電子情報通信学会, 1976.
英語の論文作成に関する本を、3 冊以上読んで身につける
すべての名詞に対して、可算/不可算か、冠詞が必要かどうか確認する
名詞が可算名詞 (countable noun) か不可算名詞 (uncountable noun) かどうかは、 初学者向けの辞書には書かれていますが、 大きな辞書には書かれていないようです。 英英辞典なら、 OALD (Oxford Advanced Learner's Dictionary) が良いでしょう。
Oxford Advanced Learner's Dictionary
http://www.oup.com/elt/catalogue/teachersites/oald7/?cc=global
英和辞典なら、 例えば、 研究社の英和中辞典、 ジーニアス英和辞典などには書かれています。
新英和中辞典 第6版 (研究社)
http://www.excite.co.jp/dictionary/
DVD-ROM版 ジーニアス英和<第4版>・和英<第2版>辞典
http://www.taishukan.co.jp/teiki/dvdrom_faq_g4.html
基本的には、 毎日コツコツ辞書を引いて覚えてゆくことが大切です。
名詞が単数になるか複数になるかは、文脈を考えて決める
A, B, and C もしくは A, B and C のどちらかに統一する
「10 以下の数 + 名詞」の場合、数は英語で書く (スペルアウトする)
例: two packets, ten packets, 11 packets, 100 packets
ただし、 数そのものに意味がある場合はアラビア数字で書く
例: X is set to 1, and Y is to 100
「……だから」という意味の as は使用しない
受動態の文章における by の誤用に注意する (手段は by ではなく with)
カンマの後は空白一つ、ピリオドの後は空白を二つ入れる
行頭は Figure/Equation/Table、それ以外は Fig./Eq./Tab. とする
Eqs.~(\ref{A}, \ref{B}) ではなく、Eqs.~(\ref{A}),~(\ref{B}) とする
Fig. 1 and 2 や Fig. 1 and Fig. 2 ではなく、Figs. 1 and 2 とする
括弧の前後には空白を入れる
本文のフォントは Times New Roman を使用する
スペルチェッカ、文法チェッカ、翻訳ソフトウェアを活用する
Microsoft Word の校正ツールを活用する
以下のページを読んで、機械翻訳のコツを学んでおく
機械翻訳を活用するための 100 のヒント
https://lsnl.jp/~ohsaki/research/tips-translation/
下記に相当する箇所は、基本的にすべて修正なので手作業で修正する
主語が it や this の文章
前置詞 + which が含まれる文章
to be ... や have、make などの使役動詞が含まれる文章
do、get、make などの万能動詞
前置詞 (定冠詞 or 不定冠詞) は、文脈を考えてすべて手作業で修正する
名詞 (単数 or 複数) は、文脈を考えてすべて手作業で修正する
時制が正しいか、文脈を考えてすべて手作業で修正する
主語、動詞、目的語などの関係が、論理的に正しいかを確認する
関係代名詞は ... that ... (強連結) もしくは ..., which ... , (弱連結) のどちらかにする
例: a model that has three links is...
例: a model, which is different from the previous one, is...
接続詞 and が、文脈を考えて正しいかどうか確認する
T. N. Huckin and L. A. Olsen, "Technical Writing and Professional Communication for Nonnative Speakers of English," McGraw-Hill, Inc., 1991.
M. Young, "The Technical Writer's Handbook," University Science Books, 1989.
J. M. Williams, "Style toward Clarity and Grace," The University of Chicago Press, 1990.
G. J. Alred, C. T. Brusaw, and W. E. Oliu, "Handbook of Technical Writing," St. Martin's Press, 2000.
迫村 純男, "英語論文に使う表現文例集," ナツメ社, 1999.
ボブ・ヤンポルスキー, "書く英語の弱点," ジャパンタイムズ, 1995.
石田 秀雄, "英語冠詞講義," 大修館書店, 2002.
原田 豊太郎, "理系のための英語論文執筆ガイド," 講談社, 2002.
プレゼンテーションに関する本を、3 冊以上読んで身につける
単に結果を並べるのではなく、研究の目的やアイディアが分かるようにする
プレゼンテーションの聴衆を想定し、それにあわせて発表内容を考える
研究の背景や、研究成果によってどんなメリットがあるのかを伝える
もととなる論文がある場合は、論文と同じ表現をそのまま用いる
スライドの内容と、口頭で説明する内容を一致させる
できるだけ、文字ではなく、図を用いて説明する
上手なプレゼンテーションの手本を探して、「なぜ上手なのか」を分析する
1 文が 1 行に収まるように、簡潔かつ適切な表現を用いる
1 枚のスライドには 6 〜 8 行程度に抑える (それ以上だと多すぎる)
文字の大きさは 24 ポイント以上にする
句読点もしくはコンマ・ピリオドの使い方を統一する
スライドの背景と文字のコントラストを大きくする
文字や図の配色を工夫する。使用する色相を 2 〜 3 種類に限定する
使用するフォントの種類 (ウェイトやセリフ) を統一する
タイトルには所属、氏名、(必要なら) 日時もあわせて書く
すべてのスライドの右下もしくは左下にページ番号を入れる
発表時間を厳守する。スライド 1 枚につき 1 分が目安とする
スライド間のつながりが分かるように説明する
スクリーンではなく、聴衆のほうを向いて説明する
コメントをもらった時は、忘れないようにすぐにメモを取る
気付かないうちに、発表中に体や手を動かす人が多いので注意する
「あー……」「えー……」などは最小限に抑える
発表する内容はあらかじめ暗記しておく
発音やアクセントが不明な単語はすべて辞書で調べる
ネイティヴスピーカに発音の間違いを指摘してもらう
発表に用いる慣用表現は暗記しておく
野口ジュディー, "耳から学ぶ科学英語," 講談社, 1995.
篠田 義明, "国際会議・スピーチに必要な英語表現," 日興企画, 1994.
Wanda Pratt, "Graduate School Survival Guide," http://www-smi.stanford.edu/people/pratt/smi/advice.html
W. C. Booth, G. G. Colomb, and J. M. Williams, "The Craft of Research," The University of Chicago Press, 1995.
金出 武雄, "素人のように考え、玄人として実行する," PHP 研究所, 2003.
トム・デマルコ, "ゆとりの法則," 日経 BP 社, 2001.