[gemini-3-flash-preview]
情報工学の専門家である貴殿に向けて、2025年12月時点での技術動向を踏まえた
Python と C++ の実行速度比較を論じます。
まず前提として、Python の「最速の処理系」の定義が 2025
年現在では多義的です。標準の CPython はバージョン 3.13
および 3.14 で導入された JIT (Just-In-Time) コンパイラ
と GIL (Global Interpreter Lock)
の段階的廃止(free-threading) により、従来の「遅い
Python」という評価を覆しつつあります。また、Python
のサブセットまたはスーパーセットとして Mojo や
Codon といった、静的解析と LLVM
を活用した高パフォーマンス言語も台頭しています。
一方、C++ は C++23/26 規格に基づき、コンパイラ(GCC,
Clang)の最適化技術がさらに洗練されています。
以下に、典型的な 5 つの用途における実行速度の差異を示します。
1. 数値計算・行列演算
(Numerical Computation)
速度差: 1.1倍 〜 2倍 (Python
がライブラリを使用する場合)
- 背景: Python では NumPy や SciPy、あるいは 2025
年に普及が進んでいる Mojo 等を使用します。これらは内部で
C、C++、Fortran、あるいは SIMD (Single Instruction, Multiple Data)
命令セットを直接叩くため、オーバーヘッドは関数呼び出しの境界のみに限定されます。
- 実態: 純粋な Python ループで記述すると C++ より 100
倍以上遅くなりますが、ベクトル化された演算では、C++
で手書きしたコードと遜色ない、あるいはコンパイラの最適化次第では同等の速度に達します。
2.
機械学習・ディープラーニング (Machine Learning)
速度差: 1.0倍 〜 1.2倍
- 背景: PyTorch や TensorFlow
などのフレームワークは、計算グラフの実行を C++ や CUDA で行います。
- 実態: 2025 年時点では、Python
は単なる「オーケストレーター」としての役割に特化しています。実行速度のボトルネックは
GPU のメモリ帯域幅 (Memory Bandwidth)
や演算性能に依存するため、言語間の差はほぼ消失しています。ただし、カスタムカーネルを記述する場合、Python
(Triton 等) と C++ (CUDA C++)
では、開発効率と引き換えに数%の性能差が生じることがあります。
3. Web
サーバー・ネットワーク I/O (Web Services)
速度差: 3倍 〜 10倍
- 背景: Python は asyncio や
uvloop (libuv のラッパー)
を用いた非同期処理が主流です。C++ は Drogon や
nng といった超高速フレームワークが存在します。
- 実態: CPython 3.13 以降の free-threading
により、マルチコアを効率的に活用できるようになりましたが、リクエストあたりのメモリ消費量とコンテキストスイッチのコストにおいて、依然として
C++ に軍配が上がります。高並列環境下でのスループット (Throughput)
は、C++ が Python を大きく引き離します。
4. データベース・ETL 処理
(Data Processing)
速度差: 1.5倍 〜 5倍
- 背景: 2025 年現在、Python でのデータ処理は
Polars (Rust 製) や DuckDB
が主流です。これらは列指向 (Column-oriented)
形式とマルチスレッド処理を極限まで最適化しています。
- 実態: ユーザーが Python
でロジックを書く限り、データのシリアライズ/デシリアライズのコストが発生します。C++
でゼロコピー (Zero-copy)
実装されたパイプラインと比較すると、数倍の速度差が生じますが、実用上のデータ処理時間においては、I/O
待ちが支配的になるため、その差は体感しにくい傾向にあります。
5.
アルゴリズム・ロジック集約型処理 (Algorithm-heavy Tasks)
速度差: 10倍 〜 50倍
- 背景:
グラフ探索、動的計画法、複雑なビジネスロジックなど、既存の高速ライブラリに頼れず、言語自体の命令実行速度が問われる分野です。
- 実態: CPython の JIT は Tier 2
最適化まで進んでいますが、C++ の静的型付けに基づく強力なインライン展開
(Inlining)
やレジスタ割り当てには及びません。特に、メモリレイアウトの制御(キャッシュフレンドリーなデータ構造の設計)が可能な
C++ は、ポインタを多用する Python
のオブジェクト構造に対して圧倒的な優位性を保っています。
概念的な誤解と補足
「Python は遅い」という誤解
情報工学の文脈では、Python は「言語」というよりも「C/C++
資産へのインターフェース」と捉えるのが正確です。2025
年時点では、「Python
のオーバーヘッドが問題になるのは、計算そのものではなく、計算の粒度が小さすぎる場合である」
という認識が一般的です。
ゼロオーバーヘッド原則
(Zero-overhead principle)
C++
の設計哲学である「使わないものにコストを払わない」という原則は、2025
年のハードウェア(複雑なキャッシュ階層を持つマルチコア
CPU)において、Python
のような動的言語との差を広げる要因となっています。Python が JIT
でどれほど最適化しても、実行時の型チェックや参照カウント (Reference
Counting)
によるメモリ管理のコストを完全にゼロにすることは理論上困難です。
結論
2025 年 12 月時点において、最速の Python 処理系(Mojo や JIT 有効化
CPython)と C++
を比較した場合、「ライブラリが完備されたドメインでは差は無視できるが、スクラッチでアルゴリズムを実装した場合は依然として
1 桁から 2 桁の速度差が存在する」 と結論付けられます。
より深く理解するためには、LLVM (Low Level Virtual
Machine) が Python 系言語(Mojo, Numba)と C++
の境界をどのように曖昧にしているか、あるいは WebAssembly
(Wasm)
がブラウザ外のランタイムとして両言語の実行環境をどのように統合しつつあるかを調査することをお勧めします。