本資料は、C++プログラミングにおける最重要課題の一つである「資源管理(resource
management)」を扱う。
C
言語で学んだ手動のメモリ管理から一歩進み、オブジェクトの「一生」を言語機能によっていかに自動制御するかを理解することが本課題の核心である。
課題に取り組む前に、以下のポイントを整理し、自身の理解を確認してほしい。
オブジェクトの生成から消滅に至るライフサイクル(lifecycle)を正確に制御する手法を習得する。
C 言語では、malloc 関数で確保した領域を free
関数で解放し忘れる「メモリリーク(memory leak)」が頻発した。
C++
では、変数の生成時に「コンストラクタ(constructor)」、消滅時に「デストラクタ(destructor)」を自動起動することでこの問題を解決する。
本課題では、これらの関数が「どのタイミングで」呼ばれるかを実験的に観察する。
この仕組みを理解することは、複雑なデータ構造を安全に扱うための絶対的な条件となる。
動的割当(dynamic
allocation)を含むクラスを安全に複製・代入できる実装力を身に付ける。
デフォルトの代入操作が引き起こすポインタの共有問題を、自ら定義する代入演算子によって解決しよう。
また、値渡し(pass-by-value)の際に背後で暗黙的に実行される「コピーコンストラクタ(copy
constructor)」の挙動を完全に制御する。
最終的には、メモリの二重解放(double
free)によるプログラムの異常終了を理論と実装の両面から防げるようになることが目標である。
変数が有効範囲(scope)を外れると、デストラクタが資源を自動的に返却する。
C
言語の構造体では、後片付け関数をプログラマが「手動」で呼び出す必要があった。
C++ では、ブロック { }
を抜けた瞬間にシステムがデストラクタを呼び出す。
この設計思想を「RAII (Resource Acquisition Is
Initialization)」と呼ぶ。
(覚え方:コンストラクタは「産声」、デストラクタは「遺言」)
ポインタをメンバーに持つ場合、単純なビット単位のコピーは破綻を招く。
デフォルトの代入は、アドレス値だけを写す「浅いコピー」である。
これは時間計算量
で高速だが、複製元と先が同じメモリ領域を指すため、一方を操作すると他方のデータが壊れる副作用(side
effect)を生む。
対照的に、新たなメモリ領域を確保して中身を転記するのが「深いコピー」である。
転記には要素数 に対して
の時間を要するが、オブジェクト間の独立性が保証される。
[図イメージ:浅いコピーは一つの箱を二人で指し、深いコピーは箱そのものを複製する]
a = a;
のような代入操作は、動的再配置において致命的なエラーを引き起こす。
資源を再確保する際、先に古い領域を消去してしまうと、代入元である自分自身のデータが消滅する。
これを防ぐため、代入演算子の冒頭で if (this != &s)
という条件式によりアドレスを比較する。
これは、プログラムの「堅牢性(robustness)」を高めるための定石(best
practice)である。
コンストラクタ本体の実行が始まる前に、メンバーを直接構築する。
C 言語のように関数内で real = 0.0;
と代入すると、「初期化」と「上書き」の二度手間が生じる。
初期化リスト : real(0.0)
を用いることで、一度の構築で初期値を設定でき、実行効率が向上する。
特にメンバーが大きなオブジェクトである場合、この差は無視できない実行コストの差となる。
y = (a + b) * c;
のような計算式の中間結果は、その行の評価が終わると即座に消滅し、デストラクタが起動する。std::vector や std::string
は内部でこれらの資源管理を完璧に行っている。次はどうされますか?
受講生が最もつまずきやすい「ポインタが共有されてしまうエラー(浅いコピー)」が、メモリ上で具体的にどのように起きるのか、図解を交えてさらに詳しく解説することも可能です。